物忘れと認知症
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気になる症状

もの忘れ

“もの忘れ”=“認知症” ではありません

脳神経外科で外来診療を行っていると,「最近もの忘れが目立つのでアルツハイマー病ではないかと心配で..」と不安そうに受診する方が増えてきています.その多くは「加齢に伴う正常な認知機能低下」と呼ばれるもの,つまり年齢相応の軽度の情報処理速度の低下・記憶力の低下です.

 

認知症とは

認知症の定義

記憶力の低下と,それ以外の認知機能(言葉・運動行為・対象の認識・立案 企画 実行を行う能力)の低下が以前の水準に比べて著しく低下し,仕事や日常生活の支障になっている状態を言います.

記憶力の低下だけがあってほかの認知機能は正常で,日常生活の支障になっていない場合は,認知症とは診断されません.多くは加齢に伴う正常な認知機能低下によるものですが,中には認知症の前段階である軽度認知機能障害(MCI)と呼ばれる状態の方が含まれていることがあります.

 

日本人の認知症は年々増えてきています

65歳以上の日本人高齢者の8-11%程度が認知症にかかっていると報告されています.

日本人全体では300-400万人が認知症と推定されており,年々増加傾向にあります.

認知症の原因の2/3程度はアルツハイマー病,次に多いのが血管性認知症です.

 

治療で治る認知症もあります

認知症を起こす原因となる病気のなかには,適切な治療により治ってしまうものがあります.もの忘れが気になり受診した患者さんの約7%程度が,治療で治る認知症といわれています.

これらの病気を見逃さずに適切な治療に導くことは,われわれ脳神経系の専門医の重要な使命の一つです.以下にいくつか例を挙げます.

 

慢性硬膜下血腫どこかに頭をぶつけたり,あるいは頭をぶつけなくとも尻餅をついて頭に強い振動が加わったりした後,1-2ヶ月程経ってから,頭の中に徐々に血液が溜まってくる病気です.脳を包んでいる硬膜という膜の内側に溜まった血腫が脳を圧迫するため,頭痛・半身の麻痺・嘔吐・認知症状などが出現します.局所麻酔による比較的簡単な手術で,多くの場合治すことができます.正常圧水頭症脳の中には水(髄液)が流れている部屋があり,脳室と呼ばれます.髄液の循環・吸収が悪くなり,脳室が大きくなってしまうのが正常圧水頭症で,認知症・歩行障害・尿失禁などを伴います.多くの場合,脳室内の髄液を腹腔(おなか)に導いてやる手術で改善させることができます.甲状腺機能低下症甲状腺は,喉の前にあるかぶと形をした器官で,体のエネルギー産生に関わる甲状腺ホルモンを分泌します.甲状腺の炎症・腫瘍その他の原因で,甲状腺ホルモンの分泌が低下した状態が甲状腺機能低下症です.典型的には脚や顔のむくみ,寒がり,皮膚の乾燥,脱毛などの症状が出現しますが,ぼーっとしたり認知症状が出ることがあり,うつ病や認知症と誤診されることがあります.甲状腺ホルモン剤を投与することにより,これらの症状の多くは改善します.てんかんてんかんは,脳が異常に興奮していろいろな症状を出す病気です.全身を震わせ,口から泡を吹き,意識がなくなる状態を思い浮かべるかと思いますが,そのほかにもいろいろなタイプのものがあります.特に高齢者では,脳にごく軽い興奮状態が頻繁に起こり,全身の発作は示さない代わりに,時々ぼーっとして元気がなくなったり,記憶が飛んでしまったりして,認知症と間違われることがあります.てんかんが認知症の原因であった場合,抗てんかん剤の投与により認知症の改善が期待されます.

 

アルツハイマー病

アルツハイマー病の症状

認知症を起こす原因の中で最も多く,年々増加傾向にあるのがアルツハイマー病です.アルツハイマー病の患者さんに特徴的な症状を以下に記します.

 

記憶障害:
特に最近の記憶の障害が病初期から中心的な症状として現れます.

 

他の認知機能の低下:
病気が進行してくると,言葉のやりとりがうまくできない・思い通りの行動ができない・正しく認識できない・考えや行動をうまく組み立てたり遂行したりできないなど,他の認知機能も障害されてきます.

 

ものとられ妄想・取り繕い:
自分が置き忘れた財布を,誰かに盗まれたと主張したり,認知機能の低下を自分では認めずに,さっきまで覚えていたとか人に話かけらたため忘れたなど,あれこれ理由をつけて取り繕う傾向にあります.

 

緩徐進行性:
これらの症状がいつの間にか出現し,非常にゆっくりと進行してきます.


アルツハイマー病の脳に何が起きているのか

病気を起こす根本的な原因はまだよくわかっていません.ただ,アルツハイマー病にかかった患者さんの脳に何が起こっているのか,発病しやすい遺伝的な要因などについてはかなり解明されてきています.

 

脳の萎縮:

まず目につく大きな変化は,脳のやせ(萎縮です).アルツハイマー病では,特に側頭葉の内側の部分が萎縮するのが特徴です.この変化は,MRIで明瞭に捉えることができます.

また,海馬の萎縮の程度をMRIで追跡することにより,アルツハイマー病かどうかの診断,アルツハイマー病治療薬の効果の評価に役立つとされています.

 

神経細胞の脱落:

脳は,情報を発信・伝達する神経細胞の集まりです.アルツハイマー病で萎縮した脳を顕微鏡で見てみると,この神経細胞が数多く脱落しています.

神経細胞の脱落に関与していると考えられる神経細胞の変化に,老人斑の形成と神経原線維変化があります.

 

老人斑:

アルツハイマー病患者の神経細胞には,早い時期からβ(ベータ)ーアミロイドと呼ばれる物質が増えてきます.これが凝集して蓄積したものが老人斑です.

βーアミロイドは,通常40個のアミノ酸からできていますが(Aβ40),これを分解するプレセニリンという酵素に遺伝子異常があると,42個のアミノ酸からなるβーアミロイド(Aβ42)が異常に増えてきて,老人斑の形成を早めます.

 

神経原線維変化:

アルツハイマー病では,神経細胞の微小管といわれる構造に結合しているタウ蛋白と呼ばれる物質が異常にリン酸化という反応を受け,リン酸化タウ蛋白として神経細胞内に沈着してきて神経細胞が脱落してきます.

 

アルツハイマー病の早期発見のためのバイオマーカーとしての期待:

このように,アルツハイマー病の患者さんでは,早期からβーアミロイドやタウ蛋白に変化が生じてきます.これらの物質を測定することにより,アルツハイマー病の診断が可能となる場合があります.

日本では,脳脊髄液中のリン酸化タウ蛋白の測定が,アルツハイマー病の診断のために健康保険適応となっています.

 

アルツハイマー病の治療

アルツハイマー病を治癒に導く根本的な治療法は現段階ではありませんが,下に記した薬の投与により,認知機能・日常生活動作・行動障害などを改善したり,症状の進行を遅らせることができることがあります.

 

コリンエステラーゼ阻害薬

・ドネペジル(アリセプト)

・ガランタミン(レミニール)

・リバスチグミン(イクセロンパッチ・リバスタッチパッチ)

 

NMDA受容体拮抗薬

・メマンチン(メマリー)

 

アルツハイマー病の危険因子

危険因子とは,病気にかかりやすくする因子のことです.ある遺伝子の異常のほか,高血圧糖尿病高脂血症などが,危険因子になることが最近わかってきています.

これらは心筋梗塞や脳血管障害の危険因子としても知られていますが,アルツハイマー病を予防するためにも,これらの因子を中年期のうちからきちんと治療しておくことが非常に大切と考えます.

 

血管性認知症

血管性認知症とは

認知症の原因疾患で,アルツハイマー病の次に多いのが血管性認知症です.血管性認知症は,脳出血や脳梗塞などの脳の病気(脳血管障害)が原因となり認知症状を呈するものです.

 

血管性認知症の症状の特徴

血管性認知症は,アルツハイマー病に比べて記憶障害がより軽く,遂行機能がより低下する傾向があるようです.また,行動の遅れ,うつ・不安などの精神症状がより強い傾向にあります.

血管性認知症は,アルツハイマー病に比べて歩行障害・尿失禁が早期から出現しやすく,またろれつが回らない・嚥下(飲み込み)が悪い・手足の麻痺や感覚障害などの神経症状が初期から認めやすい特徴があります.

また,脳血管障害を起こすたびに段階的に症状が進行する特徴があります.

 

血管性認知症をどうやって治療したら良いか

 

発病前の危険因子の管理が重要:

血管性認知症の原因は,脳出血・脳梗塞などの脳血管障害です.アルツハイマー病では,症状が非常にゆっくりと進行してきますが,血管性認知症は比較的急速に症状が出現して完成してしまいます.ですから,認知症になってから治療を行っても,なかなか良い結果は得られにくいようです.

血管性認知症の危険因子(発病させやすくする因子)には,加齢・過去の脳卒中・高血圧・糖尿病・高脂血症などがあります.血管性認知症を予防するために特に重要なのが高血圧の治療で,中年期からしっかりと治療しておくことがとても大事です.

 

血管性認知症の認知機能改善のために認められている薬はありません:

アルツハイマー病の治療薬であるコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル・ガランタミン・リバスチグミン)やNMDA拮抗薬(メマンチン)などが血管性認知症に有効であったという報告もありますが,一般には有効性は乏しいと考えられており,日本では保険適用になっていません.

 

混合型認知症にはある程度有効:

血管性認知症が単独で起こることは認知症の20%程度でむしろ少なく,40%程度はアルツハイマー病と共存して起こってくると言われ,混合型認知症と呼ばれています.このような患者さんでは,上に示したアルツハイマー病の治療薬の投与により認知機能が改善したり,進行が遅くなったりすることが期待されます.

 

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